30秒で分かる結論
研究は映像を否定するためではなく、物体の速度をどこまで数値で絞れるかを調べた。
距離、撮影機の速度、観測角度、カメラ画角の完全な組み合わせがない。
異常な高速物体とも通常物体とも判定できず、追加データが必要だという結論である。
研究が突きつけたのはUAPの否定ではなく、公開の仕方の限界だ。映像だけを見て「超高速だ」と決めることも、「鳥に違いない」と片づけることも、現在の資料では科学的に支えられない。
誰が、何を調べたのか
論文「Limits on Velocity Recovery from the PURSUE Sensor Videos」を発表したのは、Blue Marble SpaceのJacob Haqq-Misraと、NASAゴダード宇宙飛行センターのRavi Kopparapuである。論文は2026年8月12日にarXivへ投稿されたプレプリントで、現時点では査読を通過した研究ではない。
対象は、米政府のPURSUEで2025年末から2026年半ばまでに公開された112本のセンサー映像。軍用機の照準ポッドなどで撮影された赤外線・可視光映像について、画面を横切る物体の速度をどこまで復元できるかを検討した。
なぜ動画だけでは速度が分からないのか
映像上で物体が一秒間に何ピクセル動いたかは測定できる。しかし、小さな鳥がカメラの近くを横切った場合と、大型物体が遠方を高速で飛んだ場合は、画面上では似た動きに見えることがある。
同じ見かけの速さでも、近い小型物体と遠い大型物体では実速度が異なる。
映像上の動きには、対象だけでなく観測している軍用機自身の移動も含まれる。
対象が横切るのか、接近・離脱しているのかで、画面に現れる運動が変わる。
一ピクセルが実空間のどれだけに相当するかを決めるセンサー情報が必要になる。
論文によれば、この完全な情報一式を備えたPURSUE映像は一本もなかった。画面表示の一部が黒塗りされ、センサーの方位・仰角などが読めないことも分析を難しくしている。
鳥なのか、マッハ5の物体なのか
DOW-UAP-PR113では、物体が約0.1秒、4フレームで画面を横切る。目盛りからカメラ画角を推定できる珍しい映像だが、物体までの距離と角度が不明なため、近距離を飛ぶ鳥から、約1キロ先をマッハ5で飛ぶ大型物体まで区別できない。
DOW-UAP-PR149には大きさの分かる船舶が写っており、基準として利用できる。研究者は物体の相対速度の上限をおよそマッハ0.3〜0.4と計算し、少なくともこの映像では超音速の相対運動を除外できるとした。しかし物体の正体や正確な速度までは決められない。
この研究が否定したもの、否定していないもの
速度を決めるための変数が欠け、運動の異常性を科学的に判定できない。
研究は映像の捏造を認定せず、全対象を通常物体と特定したわけでもない。
物体の距離や実速度が決まらないため、異常性能の証拠にもできない。
飛行ログ、センサーメタデータ、距離情報、対応するレーダー記録が検証を前進させる。
公開の価値と、軍事情報の壁
第5弾まで継続して資料を公開したこと自体は、過去より透明性を高める一歩として評価できる。一方、撮影機の位置、センサー性能、飛行経路、レーダー能力は軍事上の機密と結びつきやすく、すべてを無加工で一般公開することが難しい事情もあるだろう。
それでも、科学的検証を掲げるなら、機密を守りながら研究者へ必要な数値を提供する方法を検討すべきだ。撮影機やセンサーの詳細を伏せたまま、距離や速度を幅として示す、認定研究者が安全な環境で未編集データを調べる、といった中間的な方法は考えられる。
ティム・バーチェット米下院議員は2026年5月、政府が保有しながら公開していない「もっと鮮明な」映像が30〜40本あると発言した。また、元国防次官補代理Christopher Mellonは2024年に議会へ提出した文書で、高速移動するUAPを捉えた鮮明な衛星画像を含む情報報告を見たと述べている。どちらも映像そのものの一般公開ではなく、内容を独立検証できる状態にはないが、「公開済み資料が政府保有資料のすべてではない」と考える根拠にはなる。
運営者の見方
米政府と軍が情報を扱っている以上、安全保障上すべてを公開できない事情は理解できる。それでも、正体の解明に必要な情報が削られた映像だけでは、科学者は異常性の有無すら判断できない。公開したという事実だけで透明性が十分になったとはいえない。
これは予想にすぎないが、米政府内にはUAP情報を透明化したい側と、機密や組織防衛のため隠したい側があり、そのせめぎ合いが現在の限定的な公開に表れているように思える。段階的な開示の途中なのか、核心を避けた公開なのかは、今後どの資料が追加されるかで見えてくるだろう。
今回の研究はUAPを否定したのではない。同時に、映像を見ただけで異星由来の超高速物体と断定することも退けた。本当に科学的な解明を望むなら、米政府は公開映像を増やすだけでなく、距離、撮影条件、センサー情報など検証可能なデータも提供する必要がある。
参照資料
公開日・確認日:2026年8月15日
今後の確認点:論文の査読・改訂、著者による追加分析、未編集映像、飛行ログ、センサーメタデータ、距離・レーダー情報の追加公開。