Case File · PR-2013-Aguadilla

アグアディージャUAP事件AGUADILLA · PUERTO RICO · INFRARED VIDEO · 2013

夜のプエルトリコ。航空機の赤外線カメラは、地上を横切り、海へ入って再び現れ、最後には二つに分かれたように見える小さな像を追った。映像の印象は鮮烈だ。では、そこに写ったものは実際に何をしたのか。

発生
2013年4月25日夜(現地時間)
場所
プエルトリコ・アグアディージャ
記録
米CBP航空機の赤外線映像
公式評価
異常挙動なし/天灯2基の可能性

概要:映像の印象と、解析後の見え方

確認しやすいこと

米税関・国境警備局(CBP)の航空機が、空港付近で3分54秒の赤外線映像を撮影した。米政府が映像を公開している。

現在の公式評価

AAROは異常な速度や水中への移動を高い確度で否定し、二つの天灯という物体の特定は中程度の確度にとどめた。

最大の争点

海への出入りと分裂に見える場面は、実際の運動か、それとも撮影位置・熱画像・二つの像の重なりによるものか。

事件は、現地時間の2013年4月25日午後9時ごろに起きた。米側の映像資料では、日付が翌26日と表示される。現地時刻とUTCの日付差によるもので、別の事件ではない。舞台はラファエル・エルナンデス空港の周辺。CBPのDHC-8航空機に搭載された赤外線センサーが、移動する熱の像を追尾した。

映像だけを見ると、一つの対象が速く飛び、海面付近で消え、また現れ、最後に二つになったように見える。その印象を調査団体SCUは異常な飛行と解釈した。だが後年、撮影機の旋回と視線方向を地図上で再構成したAAROは、二つの対象が風に流されて陸上を進んだと評価した。映像は同じでも、置く距離と飛行経路が変われば、物語は大きく変わる。

記録に登場する組織

CBPの搭乗員:映像を撮影した機体の乗員。目視証言はSCUの報告に記されているが、公開資料上では当事者の氏名や同時代の完全な証言記録を確認できない。

SCU:Scientific Coalition for UAP Studies。映像と入手したレーダー資料を分析し、2015年から報告を公開した。資料の来歴や当事者への聞き取りには匿名の関係者が介在する。

3AF/SIGMA2:フランス航空宇宙協会3AFの検討グループ。SCUの資料を再分析し、映像の対象とレーダー反応を同一視できないと指摘した。

AARO:米国防総省の全領域異常解決局。政府のセンサーデータと飛行・視線の再構成を用い、2025年に公式の事例評価を発表した。

時系列

赤外線映像を撮影

現地時間午後9時22分ごろ、CBP航空機が空港周辺の像を追尾。米側の映像記載日はUTCで翌26日。

SCUが調査結果を公開

映像、後から得た証言、レーダー資料を組み合わせ、異常な運動や水中への移動を主張した。

3AF/SIGMA2が再検討

正体は特定できないとしつつ、レーダー反応と映像対象の関連を否定し、風で流れる対象の経路も可能だと論じた。

米政府の映像配信先で公開

DVIDSが「Puerto Rico Objects」として3分54秒の映像を掲載した。

AAROが事例評価と再構成映像を公表

異常挙動はなかったと高い確度で評価。二つの天灯との同定は中程度の確度とした。

まず公式映像を見てほしい

Puerto Rico Objects CBP航空機が撮影した3分54秒の赤外線映像。後年の解釈を知らずに見ると、像が海面で消えて戻り、終盤で二つに分かれるように感じられる。Source: U.S. Customs and Border Protection / Defense Media Activity / DVIDS · Public Domain

赤外線映像に写るのは、物体の輪郭そのものではなく、背景との熱の差だ。像が暗くなって見えなくなることと、物体がその場所から消えたことは同じではない。また、撮影機自身が旋回・上昇しているため、画面内の移動速度は対象の実速度を直接表さない。

SCUは「海に入った」と読んだ

SCUの詳細報告は、対象を長さ約3〜5フィート、速度を約40〜120mphと推定した。海への出入り、方向転換、終盤の分裂も、対象自体の挙動だと考えた。後に提示された「二つの天灯」説に対しても、必要な風速や、早い段階では二つに見えない点などを挙げて反論している。

SCUが魅力的な問いを残したのは確かだ。もし本当に一つの物体が海へ入り、抵抗をほとんど受けず、再び空へ出て二つになったなら、通常の航空機や気球では説明しにくい。ただし、この「もし」を事実に変えるには、画面の見かけだけでなく、距離・高度・地形との位置関係を独立に確かめる必要がある。

フランスの再検討が見つけた隙間

3AF/SIGMA2の2021年報告は、対象の正体を確定できないとした。一方で、SCUが関連づけたレーダー反応は映像の対象とは別の現象と判断した。目視・レーダー・赤外線映像が同時に同じ物体を捉えた証拠はない、という点は大きい。

この報告も、熱画像の消失や二つに見える原因を確定したわけではない。ただし、風に流されながらゆっくり下降する対象なら、映像の経路を説明し得ると示した。異常か通常物体かを即断せず、何の資料が同じ対象を指すのかを問い直した中間地点だった。

AAROは「二つの対象が陸上を漂った」と再構成

AAROの2025年公式報告は、撮影機の位置とセンサーの向きを再構成した。対象は海へ入らず、陸上を風向きに沿って直進したと評価する。画面上の高速感は、動く航空機から静かな背景を撮ると生じる視差の影響が大きい。

「分裂」も、一つが増えたのではなく、近接する二つの対象が画角によって重なったり離れたりしたと説明する。熱の像が一時的に消えた理由として、背景と対象の温度差が縮む現象、距離の増大、雲による遮りを挙げた。AAROは異常な速度・飛行や水中への移動がなかったと高い確度で評価したが、物体が二つの天灯だったという特定は中程度の確度にとどめている。

AAROの再構成 撮影機の飛行経路、センサーの視線、対象の推定経路を上空から示した映像。元映像と見比べると、画面の中の動きと地上の経路の違いが分かる。Source: All-domain Anomaly Resolution Office / DVIDS · Public Domain

記録上わかること

確認しやすいこと

  • CBP航空機由来の赤外線映像が存在し、米政府の配信先で公開されている。
  • 一つが消えたり二つになったりするように見える場面がある。
  • SCU、3AF/SIGMA2、AAROは同じ映像に異なる解釈を示した。
  • AAROは映像に異常性能や水中への移動はないと高い確度で評価した。

確認が難しいこと

  • 対象を実物として回収・同定した記録はない。
  • 「天灯2基」という種類と、誰がどこで放ったかは確定していない。
  • 後から伝えられた目視証言と赤外線像が同じ対象だったか。
  • 当時のレーダー反応と映像対象が結び付くか。3AF/SIGMA2は別と判断した。

資料レイヤーと論点マップ

映像・同時代記録

CBPの赤外線映像

事件当夜の記録。真正性と見かけの動きは確認できるが、単体で距離・正体を決定できない。

民間分析

SCUの報告

異常な速度・海への出入りを主張。詳細な計算を公開したが、幾何学的な前提が結論を左右する。

独立再検討

3AF/SIGMA2の報告

正体は未特定。レーダーと映像の同一視を退け、風に漂う経路を一つの可能性とした。

公式報告

AAROの再構成

異常挙動なしと高い確度で評価。天灯2基という細かな同定は中程度の確度。

ロマンが残る場所

公式の再解析を踏まえると、この映像を「海中を進む未知の機体」の確かな証拠として紹介することはできない。それでも、夜の海と街を背景に小さな熱源が姿を消し、再び現れる3分54秒は、なぜ人がUFO映像に引きつけられるのかをよく伝える。

ロマンを残すとは、否定された異常性能にしがみつくことではない。何が実際に空港近くを漂い、なぜ二つの熱源があの場所にあったのかという、物体の細かな同定はなお推定の域にある。そして一見不可思議な映像を、撮影条件まで遡って読み解けるようになったこと自体にも、探究の面白さがある。

主要資料

米政府・元映像

CBP撮影、DVIDS掲載の3分54秒の赤外線映像。

映像を見る(英語)

SCU・詳細分析

映像を異常な運動と解釈した民間団体の報告。

報告を読む(PDF・英語)

3AF/SIGMA2・再検討

レーダーと映像を分け、経路と熱画像を検討した報告。

報告を読む(PDF・英語)

AARO・事例評価

2025年の公式解析。異常挙動の否定と天灯説の確度を区別して記す。

公式報告を読む(PDF・英語)

記事公開日:2026年9月17日

情報源区分:A=CBP由来映像・AARO公式報告/C=SCUの専門分析/3AF/SIGMA2=専門団体による再検討。公式の異常性能否定と物体種の推定は確度が異なる。

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